「うーん、」
なかなか良い言葉が降ってこないのか、三分程悩んだ挙句に出した答えが、


「大きな丸いもの」


「大きな、丸いもの…?」

心愛ちゃん。それは、そのまま言葉にしただけじゃないか。
いつもの素敵なネーミングセンスは、どこへ行ってしまったんだ。
―戻ってこい、ネーミングセンス。
「ごめん。なんか、良いもの思いつかなくて…思いついたら言うね?」
彼女は苦笑した。

彼女は、『大きな丸いもの』に近付けるだけ近づいて、いろんな角度からそれを見ていた。
「すごいね!良く見てみると、針金一本一本で丁寧に形作られてる」
「本当だ」
見れば見るほど吸い込まれそうな、『大きな丸いもの』。
名前が長くて言うのが大変だな。どうにかしてくれ、心愛ちゃん。
「針金の…」
「ん?」
「針金の、球体…いや、違う、うーん、針金の…巨大…」
ああ、彼女は考え込んでしまった。自分だけの空想の世界に飛んでいってしまった。
「心愛ちゃん、心愛ちゃん」
だめだ。何度読んでも返事がない。
一旦考え込んでしまうと、彼女はなかなか自分の世界から出てこられない。
せっかくのデートなのに…。
心愛ちゃん、お願いだから戻ってきてー

「銀色の巨大サークル」
「えっ?」
僕は、彼女の言葉を聞き返した。
「この針金の創造物の名前。あまり良いネーミングできなくてごめん」
「いいと思うよ、その名前」
「そうかな?」
「うん。良いネーミングだよ」
僕は、『大きな丸いもの』―いや、『銀色のサークル』を見て言った。
「ありがとう」
彼女は笑った。
「大きな丸いもの、よりはましでしょ?」
「うん。名前長かったし、言いづらい」
「も~ひどい」
そう言いながらも彼女は笑っていた。