希望の夢路

「確かに、そうかもしれません。
僕は彼女を、完全に支えきれていないかもしれない。でも僕は、彼女のことだけを想っています。あなたに口出しされるようなことは一切ありません!」
「おっと、感情的になる方なんですね?これでは望月さんも苦労なさるでしょう。こんな美青年なんですから、いろいろとご苦労もあるでしょうね」
「僕を……」
馬鹿にしているのか、と言いたくなったが我慢した。悔しいが多川の言っていることは事実だ。

「あの白い杖だけでは危険は回避できないとも言いました」
多川は淡々と話を続ける。
「杖をついて歩いていたら、大抵は気を配ってぶつかったりしないようにしますが、今回のように悪意があってわざとぶつかったりするケースもあります」
「そういう時、杖だけでは回避できませんよね」
「そうです。望月さんはあの時、一人でいたんです。だからあの三人組に目をつけられた」
「もう一人になんてさせません」
「ええ、そうしてください」
多川は、彼女の右腕に巻いていた包帯を外した。
「こちらは、そこまで深くないです。血も滲んではいませんから大丈夫です」
そう言って包帯を巻き直した。
「右足首と左足首も、歩けなくなるほどの衝撃ではありませんでした。
幸いなことに」
「よかった…」
僕は胸をなでおろした。

「あなたは、杖です」
何を言い出すんだ、この男は。
「望月さんの杖なんです。望月さんの手となり足とならなければならないんです」

そのくらい、僕にもわかっている。
けれど、意外とこれが難しい。
彼女の手となり足となる。
彼女は全く見えないから僕が手を引いたりして誘導するけれど、
伝わると思ったことが意外と伝わらなくて、違う方向へ行ってしまったりすることもよくある。

「望月さんの目になるんですよ」
「そのくらいわかってますよ!」
「望月さんは、心細いはずです。急に失明なさったんですから、真っ暗な世界にずっといることになる。その不安は計り知れない」
「ええ」
「その不安を完全に取り除くことは不可能に近い」
「でも僕は、取り除いてみせますよ」

僕は、そう宣言した。
彼女を、またもとの笑顔に戻すために。目が見えていた頃の、きらきらした目に戻すために。
彼女を輝かせることができるのは、
僕だけなんだから。
僕が支えるんだ。僕が、杖になる。
たとえ彼女の視力が元に戻らなくても、僕は彼女を一生かけて支えるんだ。
彼女を支えるということは大変なことだけど、そんなことは苦労のうちには入らない。
彼女が笑ってくれるなら、僕はどんなことでもすると決めているのだから。
「それは頼もしい」
多川の微笑みは少々不気味だったが、
僕は彼女の右手をしっかりと握った。
救急車はサイレンを鳴らし、病院へと急いだ。