ああ、切ない恋心。
誰かこんな私の寂しさを埋めてくれる博人みたいな人が、現れないかな。
なんて思ってみたりもするけど、
私にはなかなか縁のない話で…。

「どうだった?保乃果。真っ暗な世界は」
「どうだった?って。最悪よ!真っ暗で何も見えないし、自分がどう歩いてるかわかんないし。真っ直ぐ歩けてるかもわかんない。…って、私こんなとこまで来てたのね」
ここは、さちはるー幸 遥香の経営するアパレルショップのスタッフルーム。
ここには、さちはると私と博人しかいない。
「っていうか、こんな小さな段差で私、つまずいてたんだね」
目が見えているからわかるものの、見えていないとなると少しの段差でも命取りだな、とか考えてしまった。
転んだら痛いし。
「心愛ちゃんの気持ちを、少しでも知りたくて。どれだけ不便で大変なのかをね」
「ああー、いい彼氏だわ〜」
さちはるがうっとりしている。
「ふうふう〜!!」
私だってうっとりしてるんだからね!
「いやいや、そんなことないよ」
そう言いながら、照れてんじゃない。
はあ、切ない。
「目が見えないって、大変って言葉以上に大変なんだなって。考えが甘かったよ。こんな真っ暗な世界に住んでるんだね、心愛ちゃんは」
博人が悲しい顔をして言うから、私まで悲しくなってきて泣きそうになっちゃうじゃない。
どうにかしてよ、博人。

「なんで、心愛ちゃんは盲目になってしまったんだろうな」
「仕方ないじゃない。偶然に偶然が重なって…」
「それはそうかもしれないけど」
博人は、溜息をついた。
「僕のせいなんだよ。全て僕のせい」
「そんなことない。博人のせいじゃないわよ。悪いとしたら、智也のせいなんだから!」
そう。博人から心愛ちゃんを奪った、あの智也という男。
智也が心愛ちゃんを奪わなければ、心愛ちゃんの左目の視力が失われることはなかったはずだ。
それに、博人のせいじゃない。
たまたま、たまたまだよ。
博人が責任を負うようなことじゃない。
「不運が重なったんだよ」
「そんな不運、重ねさせたくなかった。そんなもの、重ねさせたのは僕なんだよ」
「そんなことないってば!自分を責めるのやめなよ!」
「だってさ!僕が別れ話を切り出さなければ心愛ちゃんの左目はまだ見えてた!僕が彼女に冷たくなんかしなければ、右目だってまだ見えてた…」
ああ、これは思ってた以上に由々しき問題だ。博人は、心愛ちゃんの両目の視力が奪われたことを自分のせいだと思っている。というか、そう自分に言い聞かせているような気がする。