風呂から上がった後、互いに髪を乾かして僕と彼女はソファーに座った。
「心愛ちゃん、ごめん。やっぱり、嫌だったろ?」
「大丈夫。ドキドキしたけど」
彼女は優しい。怖かっただろうに、大丈夫だと言ってくれる。
「心愛ちゃん、僕ね…心愛ちゃんが大好きだから。もっともっと愛するから覚悟して」
「ふふっ、うん」
にこにこ笑う天使というのは、君のことなのかもしれないな。
「心愛ちゃん、僕の手、好き?」
「大好き!ごつごつしてて、大きくて温かくて…安心するの」
「そっか。それはよかった」
彼女は、手を伸ばして僕の手を握った。

「ふふ、ひろくんの手…」
「好きだなあ」
「だめ?」
「いいや。嬉しいよ」
「ひろくんの、大きな手…」
彼女は何度も何度も僕の手を触っている。
「ひろくん…」
「ん?なに?」
「んーっ」
彼女は目を閉じていた。
これは、キスのおねだりか?
よし、それなら君の期待に応えよう。
僕は彼女に顔を近づけた。
が、すーすーと気持ちよさそうに寝息を立てて寝ていることに気づいた。
ああ、このタイミングで寝るなんて、酷いじゃないか、心愛ちゃん。
僕を置いてけぼりにしないでよ。
一人で僕から離れていかないで。
「仕方ないな…今はこれで我慢するよ」
僕は、彼女に優しく触れるだけの口付けをした。
「んっ、ん〜」
彼女は僕にキスされたのを知ってか知らずか、僕の温もりを探るように
僕の胸にしがみついた。
「起きてる?」
彼女から返事はなく、すーすーと寝息が聞こえた。
「なんだよ、寝てるのかよ」
僕は笑いながら彼女の髪を撫でた。

君の住む世界は、真っ暗かい?
全盲じゃ、何も見えないよね。
きっと、真っ暗なんだよね。
光も何も見えないんだよね。
僕には大変だなってことしか
わからないけど、僕が思っている以上につらくて苦しいんだろうなって。
不安しかないんだろうなって。
そんな不安を、僕は取り除けるのだろうか。いや、取り除けるかどうかはわからない。でも、取り除かなきゃいけないんだ。彼女の杖に、僕はなるんだ。彼女が見えない分、僕が真っ暗な世界に住む彼女の光にならなければいけないんだ。
決して、しなきゃいけない、ってわけじゃなくて、僕が好きでやっていること。彼女が笑ってくれるならそれだけでいい。彼女を笑顔にさせることが、僕の仕事なんだ。
彼女の苦しみを全部が全部理解出来ることは、もしかしたら難しいのかもしれない。でも、僕は彼女のつらさも苦しみも悲しみも全部受けいれようと思う。少しでも、彼女の気持ちが理解できるように努力していきたい。