「あっ」彼女が小さく声を上げた。
「ん?どうした?」彼女は黙って上を見上げている。
「ねえ、ひろくん」
「ん?」
彼女はきっと、二階へ行きたいと言うのだろう。
きらきらとした目で二階へと続く階段を眺めているから、すぐわかる。
彼女の考えていることが手に取るようにわかるのは、きっと一緒の時間を長く過ごしてきたからだろう。
「二階へ行きたいの」

―ほらね、予想的中。

「うん、いいよ。行ってみようか」
僕は彼女と、二階へと続く階段を上った。手すりは、金色の輝きを放っていた。
「すごい…!手すり、金色!」
彼女は手すりにさえも感動していた。
どこまで純粋なんだ。

階段を上った先には、色々な画家の絵画が展示してあった。
まず目に飛び込んできたのは、縦長の額縁に収められている絵だった。
とても温かみのある色使いをしていて、橙色や黄色を基調としたドット柄だった。
「ドット柄だ!綺麗…」
「本当だ。綺麗だね」
「色使いがすごい。綺麗だし、オレンジや黄色を上手く使ってるというか…」
―それはつまり、配色のことなのかな。僕にはよくわからないけれど。
「配色が絶妙だってこと?」
「うん。まあ、そういうこと」
彼女は笑った。
「それに、丁寧な感じする」
「確かに。雑だったら、こんな綺麗なもの作れないもんな」
僕がそう言うと、彼女が堪えきれずに吹き出した。
「何だよ?僕、そんな可笑しいこと言った?」
「ううん、そうじゃなくて」
「じゃあ、なんだよ」
「雑って…」
ふふ、と笑う彼女を見て、つい笑ってしまった。
「そりゃあ、雑だったらこんな綺麗なもの作れないだろうし、
何より丁寧さも見えてこないよ。それに…」
「それに?」
「何度も何度も同じことの積み重ねの作業だと思うから,雑な人には耐えられないかも」
「確かに」
「飽きちゃうと思うんだよね。単純作業とはいっても、何度も何度も繰り返さなきゃいけないし」
「そうだね。飽きるかもしれないけど、疲れてきちゃったりするんじゃないか?何度も同じことしてるから」
「そうだねえ」
彼女は頷いた。
「でも、好きなことだからずっとやり続けられるんじゃないかな。
集中力が途切れずに没頭できるって、よっぽど好きなことじゃないとできないと思う」
「そうだよな…好きなことだったら、誰だって時間を忘れるぐらい没頭できるだろうし」
僕は考え込むようにして言った。