降参―私は、博人の心愛ちゃんに対する愛情に降参した。
心愛ちゃんには、やっぱり勝てない。

「ごめんな。期待に添えなくて。でも、大丈夫だよ。
保乃果を幸せにしてくれる男が、きっといるよ」
「…そんな慰め、いらない」私は涙を拭いた。
「早く入ろう。心愛ちゃんが心配」
「保乃果…」
博人は、靴を脱いで中へ入って行く私の背中を追いかけた。
中へ入り、心愛ちゃんを探す。
部屋には、外の光が差し込んでいた。
眩しく明るい白い光が、部屋を照らしていた。
「心愛ちゃーん」
「心愛ちゃ~ん」
博人と私の声だけが響く。心愛ちゃんの声は、聞こえない。
「どこにいるんだ…心愛ちゃ~ん!」
博人は必死で心愛ちゃんを探していた。
そりゃそうだ。大好きな彼女だもんね。
それにしても不気味だ。
不気味なほど、しんと静まり返っている。
心愛ちゃんは、本当にここにいるのか?気配すら感じないーそう思っていた時、
「心愛ちゃん、心愛ちゃん…!しっかりして…!」
博人の大きな声が聞こえた。
悲鳴にも似た、声が。
急いでその声のする方へ駆け付けると、そこには陽の光に照らされた心愛ちゃんと博人がいた。
博人の目からは、大粒の涙が零れていた。
心愛ちゃんの顔は、陽の光に照らされてとても綺麗だった。
博人がどんなに揺さぶっても、心愛ちゃんは起きなかった。
ぴくりとも動かなかった。
心愛ちゃんはやっぱり、倒れていた。

「心愛ちゃん、心愛ちゃん。起きてよ」
博人の悲しい声が響く。
「僕の前からいなくなるなんて、そんなこと僕が絶対に許さないからね…」
博人は優しく、心愛を抱き締めた。
涙に濡れたその顔を、心愛ちゃんの頬にすり寄せた。
「心愛ちゃん…お願い、約束して。どこにも行かないと。僕とずっと一緒にいると。
急に居なくなったりしたら、許さないぞ…」
博人は、心愛をじっと見つめた。
「心愛ちゃん…起きてよ…お願いだよ」
博人の涙は、止まらなかった。
私はただ、呆然と立ち尽くしていた。
目の前には窓の近くでぴくりとも動かない心愛ちゃんと、彼女に寄り添い泣きじゃくる博人がいた。
信じられなかった。
心愛ちゃんが、柔らかでいつもにこにこしている彼女が、まるで死んだように動かない。
「嘘、だよね?」
私は呟いた。
「嫌だよ、そんなの…」
気付けば私は、心愛ちゃんに駆け寄り、博人と一緒に泣いていた。