「じゃあまずは浮く練習から!」
「えぇ、授業じゃないんだよ?」
「いざというときに必要だから!」
確かにそうかもしれないけど…
安藤はもうやる気に満ち溢れている。
「はい、手。」
「手?」
「一人で浮ける?」
「わ、分かんない…」
浮けるかどうかと言われたら多分無理だ。
でも、安藤の手を掴むのは少し抵抗がある。
だって、男子と手を繋いだのなんて小学生が最後だよ。
「はぁ、はい。」
安藤の方はいたって普通に私の手を掴む。
全く恥ずかしがる様子もないので、むしろ恥ずかしがってる私がアホらしくなってきた。
「おぉ、浮けた。」
「手、離さないでよ…?」
プールもこれまた小学生ぶりだ。
あの頃も確か泳ぐのが苦手で、よく溺れそうになっていた。
浮くことはできたが、あまりに久しぶりでまだ感覚が掴めない。
私にとって、安藤の手が命綱だった。
「そうそう、足バタバタさせてー、上手い上手い。」
安藤の声を聞きながら私は必死にばた足をする。
「ちょっと離してみるか。」
「え、やだ!まって!!」
「わっ、暴れんなよ!」
手が離れそうになったので、私は安藤の手を掴もうと探す。
その結果、安藤の腕にしがみつく形になってしまった。
「わぁ!ごめんなさい!!!」
「いや、大丈夫だけど…」
ほんの少し驚いた顔をする安藤。
私はたちまち恥ずかしくなって、「か、体休めてくる!」とプールから上がる。
「え、山森!」
体は冷えているはずなのに、顔が暑くて仕方がない。
「は、恥ずかしい…!!」
我を失った自分の行動を叱咤する。
でも、男子を思わせるたくましい腕に、私はドキドキを抑えられなかった。


