「ここ、パン屋さん?」
安藤くんに連れられて、ついたところは学校から少し離れたパン屋さん。
可愛らしい外装と、「&パン」と書かれた看板がよく目立つ。
「そう、ちょうどバイト募集してるとこ。」
「へぇ~」
カランカラン
ドアを開けると、優しいベルの音と、パンの芳ばしい香りが迎えてくれる。
「いらっしゃいませ~…あら、遥斗ちゃん!」
「こんにちは。」
店員さんと思われる、少しふくよかで、優しそうな女の人が安藤くんの名前を呼んだ。
「そちらの子は、彼女かしら?」
「違う違う、同級生。
バイト探してるらしくて、ここのこと紹介しに来た。」
「あら、そうなの!
えっと、お名前の方いいかしら?」
女の人が私にそう問いかける。
「あ、山森 薫と言います。
安藤くんとは同級生で、仲良くさせてもらってます。」
女の人はうんうんと、優しい顔で頷く。
「私は遥斗ちゃんの叔母の、安藤 久美(アンドウクミ)って言います。
薫ちゃんは、バイトの応募という事でいいかしら?
遥斗ちゃんせっかちなところがあるから、もしかして急に連れられてきたということじゃない?」
さすが安藤くんの叔母さん、まさにその通りだ。
だけど、店の雰囲気を見て、働いてみたい、そう思った。
「はい、ぜひ働かせていただきたいです。」
「そう、じゃあ軽く面接をさせてもらうわね。
主人を呼んでくるから少し待っててもらえる?」
「はい、わかりました。」
久美さんはそう言って奥に入っていく。
残された私と安藤くんはお互い顔を見合わせる。
「よなったな、バイト決まりそうで。」
「うん、安藤くんのお陰、ありがとう。」
「いや、危うく俺が働かされそうだったから、俺も助かった。」
「パン屋の安藤くん、似合いそう。」
こうして私のバイト先は、安藤くんにより無事に見つかった。
店主の安藤 洋介さんと、奥さんの安藤 久美さん。
どちらもとても優しく、初めてのバイトはとても良いところに恵まれた。


