無自覚片思いの相手は策士な肉食系でした

「真未ちゃん、そろそろクロワッサンお願いね!」

「わかりました!」

パン生地を捏ねながらひょこっと厨房に顔を出した絢(あや)さんに返事をする。
ここは私が一人暮らしている家から近い場所にある“ブロート”と言うパン屋、ほぼ毎日四時から製造のバイトをしていて学費と生活費の足しにしている。
焼きたての香しいパンの匂いはとても癒されて、もともとパンが好きだった私にはこのバイトは憩いの場だった。

「真未ちゃん、今日は一日中バイト出れるんだっけ?」

「はい、今日は講義がないので」

二等辺三角形に切った生地を引っ張って伸ばしながら底辺の中央に切り込みを入れて転がすように巻いていく。
何度も教えてもらったので、今では話ながら作る余裕も出来ていたが次の絢さんの言葉には手が止まってしまった。

「じゃあ、製造の仕事が落ち着く昼から販売の方に回ってくれる?
いつものバイトの子が休みなのよー」

「は……え?私がですか?」

「そう、真未ちゃんなら大丈夫よ、よろしくね」

「いや、ちょっと……絢さん!?」

止める言葉を聞かずに絢さんは掃除のために厨房を出ていった。
こんなつり目で立っているだけで怖がられるような自分がお店に立つのには抵抗があるのだが……おそらく追いかけて断られないようにクロワッサンを作らせたな。と溜め息をつきながらパン生地を巻いていった。