「あ、王子様のお出ましだねー」

「王子様?」

なんだそれは。と言う目で杏子を見ると逆に、知らないの?と言う目で見られた。
知らないものは知らないので続きを促すようにじっと見ていると、秋村君のことだよ。と言われた。

「格好良くて人気者で、誰にでも平等に優しくて笑顔を絶やさない、まさに王子様のようだって女子が騒いでるんだよ」

「……誰にでも優しいねぇ……」

確かに自分も高三の時にあの現場を見るまではそう思っていた。

今でも鮮明に思い出す。
夕暮れ時の路地裏で冷たく微笑んだ朝陽の顔を……。
あれは王子様なんて感じじゃなく、どちらかと言うと悪魔……。

「あ、やばっ。
今日の課題忘れてた」

「俺やってきたぞ?見せてやろうか?」

「お前のノートごちゃごちゃでわからないからパス。
他に誰か……」

騒ぎに気を取られてじっと見ていたらバッチリ目が合ってしまった。
近くには広げられた二つのノートにガッチリ写してます!と言った感じの杏子、ニヤッと笑った朝陽の顔に思わず顔が引きつった。

誰だ、この笑顔を王子様だなんて最初に比喩した奴は……。
今すぐ胸ぐら掴んで問いただしたい気持ちになった。