「ただいまー」

玄関の鍵を開けて家の中に入ると、おかえりー。と聞き慣れた声が聞こえてきてリビングに顔を出すとそこには今は滅多に家にいない姉がそこにいた。

「あれ、珍しいね、ここにいるの」

「うん、勇人さんは遅くまで仕事みたいだし、今日は朝陽がマンションに来ないって言ってたから届けに来ちゃった」

そう言って差し出してきたのは姉が最近ハマっているパン屋の紙袋、中を覗いてみるとカレーパンが入っていた。

「具材が大きくてゴロゴロ入っててすごく美味しいんだよー!」

「へー。
てゆーか、最近パン食べ過ぎじゃないの?」

太るよ?と言うと姉はうっ!と黙りこんでお腹の辺りを撫でていた。
まだ大して太ってはいないけど、職業柄油断大敵だからたまにこうやって釘をさしておかないといけない。

「そうだ、今日陽菜姉のことデビューした時から大ファンだって言ってる子がいたよ」

「え、そうなの?
うわー、嬉しい……」

両手を頬に添えてはにかみながら微笑む姉は真未と同じく美人だ。
だけど、やっぱり言動が小動物っぽくてさっきまで会っていた真未と全然系統が違う。

越名陽菜。
旧姓、秋村陽菜は栗色のミディアムヘアで印象的なくっきり二重の大きな瞳。
その容姿ゆえに今まで無駄に寄ってくる男から朝陽が護り続けてきた自慢の姉で、真未が大ファンだと言っていたモデル本人だった。