「真未」

大学の廊下を歩いていると、同じ時間に違う講義があるのか前から歩いてきた朝陽が声をかけてきた。

「何?」

「今度時間ある?家に来てほしいんだけど」

「……どうして?」

あからさまに警戒して聞き返すと朝陽は困ったように笑って、何で警戒してんの?と聞いてきた。
この前こっちが動けなくなるまで耳を甘噛みしたり、甘い言葉を延々と囁いてきたのは誰だと思いながら睨み返した。

「姉がゆっくり真未と話したいから、良かったら連れてきてほしいって」

「陽菜さんが?それなら行くわ」

さっきまでの警戒を一瞬で解いて笑顔で返事をすると朝陽は苦笑いした。

「そんなに警戒しなくもいいのに」

「警戒させるようなことしたのは誰だったかしら?」

「仕方ないじゃん。
真未を前にして何もしないなんて拷問以外何でもないんだから、抱き締めたりキスしたり悪戯するくらい許されるでしょ」

「悪戯は誰が許すのよ」

て言うか、悪戯って認めたわね。とジト目で見ていると朝陽は、言葉のあやだって。と笑っていた。
肩を竦めて、真未と陽菜、ついでに朝陽の都合のいい日を改めて連絡することにすると今日は一緒に帰れるか聞いてきた朝陽に一瞬考えを巡らせてから徐に口を開いた。

「朝陽、暫くは私の相手しなくていいから出来るだけ陽菜さんの傍にいてあげて」

「……何で?」

「あの常連の人、この前陽菜さんの事をすごく聞いてきたの。
陽菜さん絡みで何かあるんでしょ?」

持ち歩いてる鞄に隠しカメラ忍ばせてたわよ。と言うと朝陽の目が細くなりその場の雰囲気が一瞬で変わったのを肌で感じた。