――その時だった。


「穂香ッ! こんなところいたのか!」



暗闇から突如、長身の精悍な顔立ちをした少年が現れて叫んだ。


穂香に駆け寄り、いきなり手を握りしめる。


「瀬川先輩⁉ どうしてこんなところに……!」



困惑する穂香に彼は更に詰め寄る。


「友達とこの祭りに来て、そしたら偶然お前を見かけて……悪いがずっと後をつけていた」

「どうしてそんなストーカー紛いなことをするんですか⁉ 先輩との関係はもう終わったんです! 放っておいて下さいッ!」

「放っておけるわけないだろ! 独り言を呟いてフラフラと屋台を彷徨うお前を見たら!」

「⁉」



穂香は彼の手を振り払い、口元を覆った。


彼の叫び声に驚いた蛍の光が離れて、底なしの暗闇が僕らを包みこむ。


瀬川先輩は、今度は距離を詰めることなく静かに告げた。


「穂香。もうやめてくれ」

「何を言ってるんですか?」

「俺だって本当は終わらせたいんだ。でもそれにはまず君が終わらせなきゃいけない。そうしないと俺は心配で放っておけないんだ」

「なら大丈夫です。だって私は一人じゃないから……海斗がいるから!」



そう言って……穂香は、一日中放さず持っていた、ボロボロのお守りを握りしめた。


それは僕が彼女に最初にプレゼントした、神社で買ってきた幸運のお守りだった。


普段穂香はそれを鞄に付け、宝物の様に大切にしていた。


先輩は、それを悲し気に見つめて首を振る。


「それは海斗君じゃない。海斗君は――俺が殺した」