「うわー、今年もやっぱり賑わってるね」



ピンクの可愛らしい振袖をひらめかせて、穂香(ほのか)の顔に笑顔が咲いた。


夜風になびく栗色のショートに、着物がよく似合う和風然とした精緻な顔立ち。


これが僕の彼女だって昔の僕に言ったら、きっと卒倒するだろう。


両脇には色とりどりの屋台がずらりと並んでいた。


美味しそうな匂い、くじ屋のベルの音、射的の乾いた発砲音、金魚すくいではしゃぐ子供たちの声……


一年ぶりの憧憬に立ち尽くしていると、穂香は僕を覗き込んで頬を膨らませた。


「も~海斗(かいと)、聞いてるの? どうせ食べ物のことしか頭にないんじゃない?」

「いやそれは穂香の方だろ」

「そんなわけないじゃん! 凄く楽しみにしてたんだから!」

「ってことはやっぱり食べ物が……」

「あー! もーいい!」

「待ってよ! 急にどうしたの⁉」



付き合ってもう一年半になるのに、彼女の考えていることは未だに分からない時がある。


ずんずんと人混みを進んでいく穂香に並んで必死に宥める。


「ごめん謝るから! 僕だって凄く楽しみにしてたんだ」

「……それは知ってるよ」

「え? じゃあどうして」

「分かるまで口きいてあげない」

「なら僕も分かるまでここを動かない」



立ちふさがり考え込む僕を見つめて、彼女は堪えきれなくなって笑った。

「アハハハッ……もういいよ。海斗に付き合ってたら夜が明けちゃう」

「やだよ、そんなの僕が納得できない」

「いいの。一生懸命考えてくれた時点でもう許してるから」

「そうなのか……?」

やっぱり……僕の彼女の考えていることは分からない。

「それより食べ物の話したらお腹空いちゃったから何か食べよう?」

「そうだね。あ、あそこにクレープがあるよ!」

「クレープか……あれ生クリーム多そうだね……」



葛藤の表情を浮かべる穂香に疑問を感じて尋ねる。


「穂香って生クリーム苦手だったっけ?」

「……もおおおおおおおっ!」