「マスター、聞いて!」

いつになく興奮気味の彼女に"おやっ!"と驚く

「明日から………ここに寄れないんだよ!」

怒り心頭の彼女の説明によると

職場の幼稚園で嫌がらせがあって

犯人が捕まるまで危険だからと

上司が自宅に送って行くことになったらしい。

嫌がらせも狂喜を逸脱していて………

生ごみを門前に撒いたり、犬の糞をバスに置いたりしているらしい。

幼稚園なんて縁がないから分からないが…………

俺のイメージからすると

可愛い子供たちに囲まれた、清く正しいところだ。

少なくとも、俺のような人間とは関わりがない場所だ。

「それで自宅に?」

「まさか、マスターの家に送ってもらうわけにはいかないし
一度家に帰ってから、出掛けるのも気味悪いんだもん。
残念だけど…………
犯人が捕まるまでは、マスターのコーヒーは我慢かな。」

「だったら、ここに送ってもらいな。
『親戚の叔父さんのお店だ。』って言えば良いよ。
店が終わったら、俺のマンションに帰ろう。」

「えっ、それはいいよ……………。
毎日なんて申し訳ないよ。」

彼女は甘え慣れてないらしくて

強引で気が強い癖に、遠慮が半端ない。

いくら『どうぞ』と言っても、中々素直に首を縦に振らないのだ。