世界最後の朝を君と

「じゃあね、咲希。明日は絶対タピろうね」

帰りのHRが終わり、私がリュックサックを背負うと、みな美が手を降る。

「うん。いいよ。じゃあね」

私は手を振り、教室を出る。

廊下に出た瞬間、はあ、と自然にため息が出る。

今日は疲れたな。誰かさんのせいで。

で、どうせまた家に帰ったら誰かさんに散々「まな板」だのからかわれるんだろうな。

まあいいや、今日はもう早めに寝よう。

私はスカートのポケットからスマホを取り出しかけて、ハタと止まる。

あれ?

その誰かさんはどこいったんだ?

朝から一度も姿を見ていない。

もしかして、成仏したのか?

なーんだ。結局成仏するんじゃん。

私は突然足取りが軽くなり、スキップ気味で階段を降りる。

もう部活動が始まっていて、廊下に誰もいない事をいい事に、鼻歌なんて歌いながら。

「随分とご機嫌だな」
「うきゃーーー!!!!!」

突然耳元で低い声がした。

バクバク鳴る心臓を押さえて振り返る。

案の定、そこにいたのはヤツだった。

「て、店長! どこいって…んっ」

突然、店長の顔がグッと近付き、人差し指を私の唇に押し付ける。

店長との距離約10センチ。毛穴の一つ一つまで見えちゃいそうなくらい近い。

自分の心臓が嫌なほどドキドキと鳴っているのが分かる。

その後、私の目の前を生徒が歩いて行った。

「あんま一人で喋んなって。とにかく、今は家に帰ろうぜ」

店長は生徒が見えなくなるのを確認してから、下駄箱へ向かう。

私はお風呂あがりのように熱い頬を押さえ、店長に聞こえないくらい小さな声で呟く。

「あれは、反則…」