世界最後の朝を君と

「立花」

それは四時間目の途中の事だった。

私があくびをこらえながら授業を聞いていると、突然前のドアが開き、担任の先生が入ってきた。

「少しいいか」

恐らく昨日の事だろう。

私は「授業サボれてラッキー」くらいの気持ちで立ち上がると、少し離れた席のみな美が「咲希、大丈夫?」と尋ねる。

すると先生が「あー、戸田。お前も来い」と手招きした。

みな美は、私の気持ちを代弁するかの様に「よっしゃ。授業サボれる」と小さくガッツポーズをすると、教壇に立っている数学の先生が「戸田、そういうのは心の中にしまっとけよ」と苦笑いする。

教室がどっと笑い声でうるさくなる。

みな美は全く聞く耳を持たず、私の手を引き、教室を出る。

「どうしたんですか?」

私とみな美は肩を並べ、先生の後ろをついて行く。

「警察の方が昨日の事で話を聞きたいそうだが、大丈夫だったか?嫌だったら断ってもいいんだが」
「私は全然オーケーですけど…」

みな美がチラ、と私に視線を送る。

「私も大丈夫です。少しでも力になりたいですし」
「咲希…好き!」

私が少し口角を上げると、みな美がぎゅうと抱きしめてきた。

「もー、苦しいよ」
「咲希の優しさに惚れた! 先生! もう私、咲希と結婚します!」
「そうか、結婚式は呼んでくれよ」

私達は顔を見合わせて、笑う。

そんな事をしている内に、私達は校長室の前までやって来た。

先生がノックをして、ドアを開けると、中には高級そうなソファに校長先生と、警察官が二人、座っていた。

私達は少し背筋を伸ばし、「失礼します」と頭を下げ、向かいのソファに腰を下ろす。

「授業中でしたか、申し訳ありません。少し、昨日の事件について、事情聴取をしても宜しいですか?」

警察官がそう尋ねると、みな美がいち早く「はい」と頷く。

「ありがとうございます。では、昨日の状況について、詳しく教えてください」

私も何か言わなくちゃ…

「えっと、私とみな…彼女がラーメン食べてて、急に後ろでおぼんが落ちた音がして、振り返ったら、店長さんが床に倒れていました」
「なるほど。その振り返った時に、犯人の顔は見えましたか?」
「いえ…フードをかぶってたし、サングラスとマスクもしていたので、よく見えなかったです」
「ただ、血のついたナイフを持っていたのは見ました」

「ね?」とみな美が相槌を打つ。

私はコクンと頷く。

「ありがとうございます。次に、犯人の特徴を分かる範囲で教えてください」

私は頭をフル回転させて、昨日の情景を思い出す。

「…背が」
「背が?」
「背が、高かった様な気がします。だから、恐らく、男の人だと思います」
「あ、確かに。あの店長さんよりもちょっとだけ背が高い様に見えたかも」

みな美は「すぐ走って行っちゃったから、詳しくは見てないですけど」と付け加える。

「あ、あと…」

そうして、私達は昨日の事を出来るだけ伝えた。