「咲希」

名前を呼ばれて私はうっすらと重い瞼を開ける。

まだぼやける視界の中で隣で寝ている店長と目が合う。

「おはよ、咲希。よく眠れたか?」

頬杖を付き、添い寝している店長は、上半身裸だ。

「昨日の夜は悪かったな。ちょっと激しすぎたよな。体、大丈夫か?」

店長はフッと優しい笑みを浮かべ、私の頬をそっと撫でる。

ん…?

昨日の夜…?

やりすぎた…?

半分寝ている私の脳みそが今の状況をやっと理解した。

「どぇええぇええ!!!!」

その瞬間私は布団を剥ぎ取り、店長をベットから突き落とす。

「ぐえっ」

幽霊だからか、音一つ出ることなく、店長の体は床に叩きつけられた。

「ちょちょちょちょちょちょっと待ってくださいどどどどどういう事ですか!?」

落ちた拍子にぶつけたらしい肩をさすりながら起き上った店長はテンパる私につかつかと近づく。

「?」

顔にはてなマークを浮かべる私の額を店長はピンと指で弾く。

「っ!」

「ばーか、何もしてねーよ。ちょっと驚かせようとしただけだって。昨日の夜は俺もお前も寝落ちしただろ」

じんじんと痺れる額を押さえて私は「なんだぁ〜」と肩を下ろす。

「もう本当やめてください。妙にリアルだったから本当にやっちゃったのかと思いました…」

何だか急に恥ずかしくなり、私は布団を頭から被る。

「やったって、何を?」

店長は被った布団の隙間をぐいっと広げ、私に顔を近付ける。

ニヤリと笑う店長。

あと数センチ近づいたら鼻と鼻がぶつかるくらいの距離だ。

店長の顔のパーツ一つ一つがはっきりと見える。

女子顔負けの長いまつ毛と、見つめていると吸い込まれてしまいそうな綺麗な瞳、日焼け止めのCMに大抜擢されてもおかしくない程の白くて透明感のあふれる肌。顔が(無駄に)整っているせいで、嫌でもドキッとしてしまう自分がいるのが悔しい。

私は「分かってるくせに」と言い店長の頬に手をやりぐいっと押し返す。

「はは、顔真っ赤」

「うるさい!」