三月の向日葵




楽しそうに話し出す葵は立ち上がってうろうろし始めた。
何か考え事をしているのか、宙を見ながら話している。


私が漫画家?
何夢みたいなこと言っちゃってんの?
そんな漫画や小説みたいな話バカみたいじゃん。


「とにかく描いて、描いて、描きまくる。
 そして持ち込みしようぜ。な?」


「な、って。あんたバカ?
 そんなの無理に決まってるでしょう」


「確かに難しいし大変だよ。
 でもやる価値あるだろ」


「非現実的なことはやりたくない」


「なんで?十分現実的だろ。
 お前が漫画家になる確率なんて、
 他の人より高いじゃん。他の一般人に比べたら」


私だって一般人なんですけど。


さっきからこいつは何を言っているんだ。


頭が追いつかない。
呆れて物も言えないとはこのことだ。


そんな大それた夢を持つほど、
今の私には時間がないことくらい、
いくらこいつでも分かるはずなのに。


私がため息をつくと、葵は
椅子に座って真剣な目で私を見た。


「やろうぜ。何もしないで死を待つのだけはやめろよ。
 明日の活力を作るんだ」


「明日の活力ね」


ノートを見つめる。
絵の中の葵は憂い顔でどこか寂しそうだった。
そんな絵を眺めていると、急に何か意欲が湧いてきた。