三月の向日葵




「ここ、間違ってる。分かるか?」


「えっ?どこ」


「ここ。これは逆だよ。間違って覚えてんだな。
 今度来たら教えてやれよな」


どこぞの亜美ちゃん、間違えてるってよ。
それにしても葵、勉強出来るんだな。
なんか意外。出来なそうな顔して。


「あんた、勉強出来るの?」


「当たり前だろ。受験生だぞ」


「そっか。そうだった」


受験生か。
そんな時期に入院だなんて可哀そう。


まあ、私の方がよっぽど悲惨だけど。


「勉強、教えてやろうか?」


「いや、いい。私勉強はしないから」


私が言うと、葵は首を傾げてノートを閉じた。
そして私の絵のノートを取り上げる。


ページを捲って自分の絵が描いてあるのを指さした。


「こっちがやりたいから?」


「そう。どうせ勉強したところで私は死ぬし
 意味ないんだよね。
 ならやりたいことやってた方がいいし」


「ふーん。そういうことね」


葵はうーんと唸って眉間に手を当てる。
そしてしばらくそうしていたかと思うと
ぱっと顔を上げてニヤリと笑った。


「だったら絵を描こうぜ。
 どうせなら、それを仕事にしちゃえば?」


「は?」


「漫画家なんてどうだ?それならやれそうじゃねぇ?」


「ちょっと、どういうこと」