三月の向日葵




ふと、声がした。


びっくりして俯きかけていた顔を上げる。
ドアの方に目を向けると、
そこには病衣姿の男の姿があった。


「あお、い……」


「あれ、どちら様?」


葵は京子を見てそう言うと、
ドアにもたれかかりながら私に目で問う。


京子はきょとんとして葵を見つめた。


「あ、私安藤京子です。
 茉莉の一番の親友です。あの、あなたは?」


「なるほど、京子ちゃんね。
 俺は日向葵。茉莉の彼氏です」


「ええ!か、か、彼氏?」


「そういうこと」


京子が大きな声を上げる。


私と葵を交互に見つめて、嬉しそうに、
キラキラした目をする。


葵は中まで入ってくると
京子の手を取って軽く振った。


「お友達に会えて嬉しいよ。これからよろしく。
 で、早速なんだけど茉莉に話があるからさ、
 席外してくんない?」


「ええ、はい!喜んで!
 茉莉、今度詳しく聞かせてよね」


京子は嬉しそうにウインクすると
そそくさと病室を出て行った。


京子がいなくなってしんと静まり返る。


私はふぅっと肩を落として脱力した。


訳の分からない怒りのバロメーターが
一気に色を失くしていく。


ドクドクと脈打つ心音が聞こえてきて、
ゆっくりと目を閉じた。