京子は中まで入ってくると
室内をキョロキョロと見渡した。
丸椅子に腰かけてカバンをあさる。
中からノートを取り出した。
「ほら、今日も授業のノート持ってきたよ。
板書するの大変だったんだから」
誰も頼んでないのに。
「数学は亜美ちゃんのノート写させてもらったんだよね~」
亜美って誰だよ。
「なんかさ、高校生になったら
時間ってあっという間に過ぎるからさ、
ここに来るのもなんとか時間作らないといけなくてさ、
もう大変なの」
じゃあ来るな。
「ありがとう、京子。いつも悪いね」
心の中でこんなことを思ってしまう自分が嫌いだ。
別に京子が悪いわけじゃないのに、こういう時、
京子を心底嫌いだと思ってしまう。
病気になってから京子へ対する嫉妬心が
こびりついてしまってどうしようもない。
だけどそれを表に出すことは出来ないから、
今日も私は嘘の仮面をかぶる。
「いいの。私はね、茉莉には
早く元気になってもらいたいの。
そのためなら私は何度だってここに来るよ。ね?」
「うん。ありがとう」
笑顔が引きつる。
早く、早くいなくなってほしい。
じゃないと私、何をするか分からない。
「あっ、坪井が茉莉の連絡先知りたがってたから教えたけど、
いいよね?」
「うん」
「それからね、うーんと……」
早く。
お願い、早く。
早く帰って!
「おーい。茉莉」


