「じゃあ、毎日会うか。
待ち合わせ場所は中庭で。いいか?」
「会ってどうすんの?」
「さあ?まあ適当に話とか」
「なにそれ面倒くさ」
「面倒くさいのが恋だよ」
葵がすました顔で言う。
そういうものなのか。
なんだか本当に面倒くさいことに
足を突っ込んだ気がする。
絵なんて描かなければよかった。
なんてそんなこと初めて思ったよ。
「じゃあ今日はもういいよね。
私点滴交換の時間だから行くよ」
「ああ、点滴交換ね。大変だなぁ」
「そう、大変なの。あんたとは違うんだよ」
「そうだな。俺とは大違いだ」
「分かったらもういいね、じゃ」
「茉莉」
葵に呼び止められて、
私は面会室のドアに手を当てたまま振り返った。
「もう、泣くなよ」
「だから!泣いてないって」
「泣きたくなったら、俺のとこに来い。
いつでも中庭にいるから」
「……はいはい。あんたを頼ることは
ないだろうけどね」
私はぴしゃりと扉を閉めて、
点滴を引きずって歩き出した。
本当に最悪。
これから半年間もあんなやつに付き合わなきゃいけないなんて。
三階に着いてベッドに戻ると、ノートを広げた。
昨日描いたあいつの絵を見つめる。
『もう、泣くなよ』
「泣いてなんかないっつぅの」
べぇっと絵に向かって舌を突き出す。
何あいつ。
出会ったばかりなのに
私のこと知った風に喋っちゃってさ。
偉そうに、あんな真面目な顔して「泣くな」だって?
笑わせないでよね。私は強いんだから。
何があったって泣いたりなんかしない。
たとえ死ぬ未来が待っているんだとしても。


