葵は私の手を取ると、指を絡めた。
やっぱり葵の手は冷たかった。
「そ。昨日付き合い始めたばっかり。
でも前から知り合いだったんだ。
茉莉がどうしても付き合ってくれってうるさくて」
そう説明した葵を思わず睨んだ。
おい、なんで私が懇願したみたいな言い方するんだ。
そこはあんたから告白したっていいなよ。
「茉莉、ちゃん?葵のどこが好きだったのかしら」
「えっと……」
そんなこと言われても、私は別にこいつのことが好きなわけじゃないし
聞かれても困るというか……。
私が困っていると、葵が目で訴えてきた。
はいはい、分かりましたよ。
それっぽいこと言えばいいんでしょう?
「空を」
私が話し始めると、葵のお母さんは
首を傾げて私の声に耳を傾けた。
「空を見ている時の彼が好きなんです。
葵の横顔を隣で見ているのが好きで。
もっとずっと隣で見ていたくて告白しました」
「そう。この子、そんなところもあるのね。
知らなかった」
私が答えると、葵は私を見つめた。
何?気に食わなかった?
当たり障りのない答えじゃない?
文句があるなら最初から話を合わせとけって。
「今が一番楽しい時期ね。茉莉ちゃん。
これからも葵のこと、よろしくね」
「はい」
「葵は?茉莉ちゃんのどこが好き?」
げっ。それは嘘でも聞きたくない。
変なこと言うんじゃないでしょうね。
本当に勘弁して。鳥肌立つかも。
「茉莉は、体が弱くて、いつも一人で泣いてた。
だから守ってあげたくなってね」
「そう。じゃああなたが守ってあげなくちゃね。
しっかりしなさいよ」
「ああ」
「じゃあお母さん、仕事があるから行くわね?
安静にしていなさいよ」
葵のお母さんは私に笑いかけると、
大きな荷物を持って面会室を出て行った。
二人で取り残されて、顔を見合わせると
互いに同時に口を開いた。
「お前なあ」
「あんたね」


