三月の向日葵




「お母さんにも会わせてね。どんな人?」


「えっと……こんな人」


どんな人と聞かれても会ったばかりだからよく知らない。


ただむかつく奴ってことだけかな。


だから私は描いた絵を見せた。


お母さんは絵をまじまじと眺めると、
うんと一つ頷いた。


「綺麗な顔の子ね。名前は?」


「葵。女みたいな名前でしょ」


「そうね。でもかっこいいじゃない」


「そうかな……まあそうかもね」


「茉莉に彼が出来てよかった」


「なんで?」


「だって、これで少しは女の子らしくなるでしょう?」


仮にも私の母親なのにその言い草。
まあ私が女っぽくないのは
自他ともに認めるくらいだしね。
そこは否めないけれど。








しばらくするとお父さんが病室に顔を出した。


作業着姿のお父さんは私に彼氏が出来たと報告すると
泣き出しそうな顔をしていた。


真っ黒な手で目をこするから、
顔は真っ黒に汚れていった。


私たち家族は半年ぶりに大きな声で笑った。


こんなこと、私が入院してから初めてのことだった。


こんなことでお父さんやお母さんが笑ってくれるなら、
彼女のフリをするのも悪くないと、そう思えた。