三月の向日葵




三階で降りたのは私だけだった。


ペタペタと廊下を歩く。


病室の扉を開くと、カタンと音がした。


「お母さん」


「茉莉。あんたどこ行ってたの?」


引き出しにタオルを入れていたお母さんは
手を止めて私を見た。
私に駆け寄ると両肩を掴んで心配そうに見つめた。


「具合は悪くない?ん?薬は飲んだ?」


「大丈夫。お母さんいつ来たの?」


「今さっきよ。お父さんももうすぐ来るからね」


お母さんは安心したように私の頭を撫でると、
また引き出しに戻ってせっせと荷物をつめ始めた。


私は黙ってベッドへ潜り込む。


ノートを広げて、パラパラと捲っていく。


葵を描いたページを開くと、窓の外を見つめた。


「ねえ、お母さん」


「んー?なあに」


「私、彼氏が出来た」


何気なく私が呟くと、お母さんの
息を飲む音が聞こえて、お母さんの方を見た。


お母さんは再び手を止めて
びっくりしたように私を見つめている。


しばらくそうしていたかと思うと、
私に近づいてきてそっと頬を触った。


「そう、そうなの!あなたに彼が?」


「う、うん」


フリだけどね。
かっこ仮ってやつ。


どうして言っちゃったんだろう。
絵を見ていたら、何故か口が勝手に動いていた。