三月の向日葵




こいつ、ふざけてないってところが逆に腹立つ。
彼女のフリってなんだよ。
私にはそんなことしている余裕も暇もないっての!


「嫌だ」


「てめぇ、逆らう気か?」


凄まれて、つい身を引いてしまう。


こいつこんなに怖い顔も出来るんだ……。


びっくりして口をぱくぱくさせて、私は頷いた。


葵は満足げに笑うと、私の手を取った。


びっくりするくらい冷たかった。


「よし、茉莉。そういうわけでよろしく」


「な、なんであんたによろしくしなくちゃいけないんだ」


「あ、その喋り方やめろよな。
 俺の母さんは上品でかわいい女が好きなんだ」


「うるさいな。これが私なんだ」


「ちょっとは協力しろよな。
 まあ、それは追い追い直してくれればいいや」


葵が私の隣に腰掛ける。


女の子みたいにほっそりしていた。


そんなにスペースを空けていなかったのに、
すっぽりとその隙間に入った。


「半年だけだからね。あと一つ。
 別れる時はあんたが振られたってことにすること」


「ああ、なんでもいいよ」


「こっぴどく振ってやるから」


「細かい設定は俺が決めるからな」


「どうぞご勝手に」


私はふと、葵の点滴を見上げた。
名前がフルネームで書いてある。


「日向、葵?」


「ん。そうだけど」


「向日葵だね」


「は?」


素っ頓狂な声を出した葵は
私を驚いた様子で見つめる。


私はノートに葵の漢字を書き出して見せた。