三月の向日葵




葵はそう名乗った。
言ってはいけないと分かっていても口をついて出てしまうもので。


「女の子みたい」


「よく言われる」


葵は気にするでもなくそう言った。
そして私からノートを取り上げるとまじまじと見つめた。


「ふうん。お前って絵が上手いのな」


「返せ」


「お前な、口悪いぞ。
 女ならもっと上品に喋れよな」


「返しやがれ」


「……お前歳いくつ?」


「十六」


「ふうん。俺は十八」


葵は得意げにそう言うとノートを返してくれた。
返されたノートを見て、ちょっとだけ思う。
あの憂い顔はなんだったんだ。


話してみると全然イメージと違う。
初対面なのにこんなにむかつくのはなんでだろう。


「で、なんで俺の絵なんか描いてた?」


「それは……知らない」


「あっそ。言っとくけど、俺は高いよ?
 事務所通さないで描いたならモデル料が発生するね」


「げっ、あんた芸能人なの?」


しまった。面倒なことになったと顔を顰めると、
葵はゲラゲラと笑った。


「んなわけねぇだろ。俺が芸能人なら
 お前でも芸能人になれるね」


むかつくけど、葵は普通に芸能人でもおかしくないほど顔立ちは整っている。
本当に芸能人かと思ったのに。


「でもモデル料が高いのは本当。
 俺は写真撮られるのも、勿論絵を描かれるのも嫌いなんでね」


「私お金なんてないけど」


「んー。じゃあ体で払ってもらおうか」


そう言われて、私は後ずさった。
体でってどういう意味?