ハナノユメ

 煌星は、まさかこんなことになるとは知らず頭を悩ませていた。花に紹介するはずのラシェッドであったが、本人はユリアを気に入ってしまったらしいのだ。最近、ラシェッドはユリアのことばかり話しているし、煌星がみるところ、ユリアの態度が驚くべきスピードで軟化していっているのを手に取るように感じていた。
「強気で頑張り屋さんで、でもちょっと世間知らずで傷つきやすそうなところがいいんだ」
そう言って悪戯っぽく笑うラシェッドは恋愛にも何事にも積極的で、確かに、よくよく考えれば花とは合わないかもしれない。花も、ラシェッドのことをよく知ったら、理想と違うことに気づくかもしれない。だけど、あの子が傷つくだろうと思うと、煌星は、苦々しく思うのであった。しかし、こればかりは、親友とはいえ強制するものではないし、どうしようもないことだった。
ラシェッドは窓枠に後ろ肘をつき、首をのけぞらせて逆さまになった空を見ていた。それから、女生徒の落下事件のことを話し出した。
「悠木に協力するんだって? あいつ、西の地の出身だろ。親戚に上の方の役人がいるらしくて、捜査のことも頼み込んで聞いているみたいだな。あんまり教えてもらえないみたいだけど」
 煌星は頷いた。
「厄災が関わっているって言っていたな」
「だけど実際、厄災で何かしでかすなんて、このご時世、できるやついないだろ? そんな呪いみたいなことができたのは、旧時代までさ。せいぜい、物事の確立をあげたり、作用する力を強めたりするくらいだよな。たとえば、なんだろ、転びやすくしたり? 運を下げたり? しょぼいよな。そんなんで人を殺せるか?」
「王族に連なる血筋ならそうとも言えないんじゃ?」
「出たよ、血、血、血。だけどさ、この学年でも祝福の強さじゃ君と一二を争うって言われている僕でもさ、渾身の祝福を込めて舞踊を踏んだって、できることはしれてる。祝福の血が濃いからって、そんな魔法みたいなことがあるかね?」
 ラシェッドは冷ややかに嘲笑した。
煌星は、祝福により黒海の夢を魅せたという母を思った。意図されて眼前に広がる夢。それは魔法のようなものではないだろうか。煌星の母は王家の傍系出身であった。王家との結びつきや祝福の強さを重視した縁組だったらしいが、煌星の母にとっては悲惨な結婚だった。父と母の仲が冷えていたのは幼心にもわかったし、母は精神をおかしくしてゆき今では煌星に妄執していた。しかし未だに祝福の力は健在らしい。
「ともかく。悠木、ずいぶん落ち込んでいるみたいだろ。俺にできる事があれば協力しようと思っただけだよ。でも、一介の学生には、何もできる事はなさそうだけど」
 煌星はため息とともに本を閉じた。ラシェッドも頷く。
「まあな。だが今回のことはそうともいえないみたいだ」
 ラシェッドはいわくありげにニヤッと笑った。煌星は、ラシェッドのその表情は良く知っていたので構えてしまう。ラシェッドがそうやって笑うとき、いつも煌星と悠木はろくでもないことに巻き込まれるのだ。今回は、悠木が発端だけれど。
煌星は、学年末に時計塔から落下した女生徒の事件の真相を、悠木とラシェッドと共に探ることになるのだった。