「星野先輩、質量保存の法則ってどんなものでしたっけ?」

俺が妄想をしている間に、友永が星野先輩に近づき、訊ねる。テメェ、近すぎじゃコラ!離れんか〜い!!

しかし、星野先輩は距離感を気にする様子もなく答えた。

「化学変化の前後で、物質全体の質量は変わらないことを質量保存の法則と言うんだよ。化学変化だけでなく、状態変化など、全ての物質の変化で成り立つんだ」

その言う星野先輩の表情に、俺の体は熱で溶けていきそうになった。



夏・冬になると、冷房か暖房を求めて生徒が集る場所がある。それは……図書室!

うちの学校には教室にエアコンがない。だから休み時間は、みんな下じきをうちわがわりにしている。

でも、エアコンの風を求めて、図書室に昼休みや放課後に集まる生徒は少なくないのだ。

俺は、星野先輩からオススメされた本などを借りに来たりする。理科に関する本が多いけど、わからないことは全部解説をしてくれるから天国サ!

「あれ?珍しいな。自分がそんな本読んどるなんて…。明日、夏やのに雪降るんとちゃう?」

図書室で図鑑を見ていると、声をかけられた。この関西弁、誰なのかはすぐにわかる。

「杉田先生!失礼すぎっす!」

杉田先生は、一年生と三年生の化学を担当している先生だ。ちなみに、歳は二十六歳で彼女いない歴四年らしい。何で関西弁かと言うと、関西に住んでいた時期が長かったからだそうだ。

「それ、結晶の図鑑か?」

杉田先生は、本を覗き込む。近い!これが星野先輩だったらどれだけよかったか…。きっと心臓がバクバクうるさいんだろうな。

図鑑には、規則正しい形の固体がいくつも載っている。とてもきれいだ。