彼女が狭いキッチンで料理をしてる間、俺は六畳の洋室に通された。
フローリングの上に毛足の短いラグが敷いてあって、小さな折りたたみの白いテーブルがあり、そのサイドに座椅子のようなものが置いてあった。どこに座ろうかキョロキョロしていると、その向こう側にピンク・黄色・ブルーの組み合わせのボーダー柄のカバーがかかったシングルサイズのベッドが目に入って、俺は硬直。
慌てて視線を逸らして座椅子に座り正座。
「嫌いなものとかある?アレルギーとか」
と廊下の奥の方で彼女の声が聞こえてきて
「いえ…ありません」と答えるのが精一杯。
「て言うか、さっき料理作りすぎたみたいなこと言ってませんでした?」
「あー、あれ?あんなの嘘だよ。あいつを追い返すための口実」
彼女はキッチンから顔だけを出すと意地悪そうに笑う。
口実……
そして俺の反応を気にしてないように再びキッチンに向き合う。
ど、どーしよう……壁を乗り越えてついにここまで来ちゃったけど。
と、俺だけは落ち着かずそわそわ。
彼女の愛用しているであろう香水の香りがいつもより身近に感じて俺の鼻孔を優しくくすぐる。
この部屋は―――彼女で溢れている。
いつか彼女の部屋に入ることを夢見てたわけじゃ……いや、ちょっと妄想はしました…
でもそれってこんなハプニング的な?シチュエーションじゃなくって、もっとこう!自然にね…
例えば
『ごめんね~水が出なくて、ちょっと見てくれる?』とか
『天井の電気に手が届かなくて』とか?
つまりは俺の妄想の中でも雑用要員な俺なのに、
「ビールしかないけど大丈夫?こないだ飲めるって言ってたよね」
雑用どころかもてなしされてるし!
「あ、はい!お構いなく!」
やべ、声ひっくり返った。
俺、無事にこの部屋から脱出できるのかな……



