俺は言うまでもなく、一人暮らしの女の人の家に入るのは初めてなわけで。
玄関や廊下、廊下に並んだ小さなキッチンやバスルームやトイレは俺のとこと変わらない間取りだったけれど、フェルト素材の玄関マットとか、白い壁に貼られたオシャレなポストカードとか、キッチンに掛かった調理用品とか見ると、全然違う部屋に見えた。
そして嗅ぎ慣れた甘くてどこか落ち着いた香り。
を、じっくり考えてる場合じゃない。
「おいっ!ちょっと!」と尚も男は俺の背後で喚いていて
俺と同じように扉に背を向けていた彼女が
「うるっさい!警察呼ぶよ!」とドア越しに怒鳴ると、声は止んだ。
あ、諦めた??
てか、これが修羅場ってヤツ……?
俺、まだ告ってもないし、手を繋いでなければキスもしてない。ましてや付き合ってる事実すらないのに、それを飛び越していきなり!?
「あ……あの……」
思わずすぐ隣で肩で荒く息をしていた彼女を見下ろすと、彼女は深いため息を吐いて前髪をぐしゃりと掻き揚げ
「ごめん。変なことに巻き込んで。とりあえず上がって?」
と、俺にスリッパを寄越す。
彼女は何でもないような素振りで自分のスリッパに足を入れると手慣れた手つきで下りた髪をさっとまとめる。
「あんまり凝ったもの作れないけど、パスタでいい?」
いや…
いやいやいや!
何、普通に言っちゃってるの!?



