SHALIMAR -愛の殿堂-



前のタッパーを返しても、またも新しいタッパーが俺の手元に残った。


俺はシェヘラザード…もとい“由紀恵”さん??


てか未だに名前分かんない、とまた話すことができるのだろうか。


「口実なんて幾らでもあるだろ??タッパーを返したいとか」


午前中の講義が終わっても、広い教室に居残り、またも吉住はレポート用紙とにらめっこで、さほど重要でないように言った。


「なるほど、その手があったか」


「てかお前、俺より成績良いんだしそれぐらい分かんだろ。何のための勉強だか」


吉住はブツブツ言って教科書をめくっている。吉住のレポート用紙にはたったの一行しか書かれていない。


ちなみにPCで作成は禁止。全部手書きじゃないと点数もらえないと言う厄介な教授だからな。


がんばれよ、吉住。


今日の午後1時までが提出期限だ。ちなみに俺はもう提出済み。


「ヒューマニスティック心理学の歴史だぁ??お前何書いた?」


「提唱者であるアブラハム・マズローのこと書いた」


「ふむふむ。で??そのハムは何て?」


てかハムって……


「彼は人間性心理学の最も重要な生みの親とされている。これは精神病理の理解を目的とする精神分析と、人間と動物を区別しない行動主義心理学の間の、いわゆる「第三の勢力」として、

心の健康についての心理学を目指すもので、人間の自己実現を研究するものである。


彼は特に人間の欲求の階層(マズローの欲求のピラミッド)を主張した事で…」


俺が淡々と説明すると、


「待て、待て!俺にはチンプンカンプン。もっとゆっくり説明して。メモるから」


と吉住はあせあせ。


メモるって内容が俺と全く一緒だったら写したってバレバレじゃん。



欲求の段階―――かぁ。



俺はピラミッドで言えば今“彼女”にどれだけの欲求を求めているのだろう。