SHALIMAR -愛の殿堂-



俺、彼女を怒らせるようなことしたかな…


きゅるきゅる…


脳内記憶レコーダーを巻き戻して、


振り返ってあれこれ考えてみるも、いくつか自分でも最悪だと思う失態をしでかしたが、ここかなと言う場面で、


「ストップ!一時停止!」


と箸を止めて、宙を睨む俺を目の前で吉住が思い切り不審顔。


だが一時停止したところで、彼女の表情にはこれといって怒ったようにも見えなかったし、怪訝そうでもなかった。


じゃぁいつ…


スローで脳内映像を流していると、


「由紀恵さん♪もう寝ちゃったかな~。夜はパジャマ派??スウェット派?もしかしてネグリジェ?♪」


と吉住が楽しそうに壁に耳を寄せて目を細めていた。


てか何だよ、その派は。


てか想像すな!!


「何やってんだよ!ってかプライバシーの侵害だろ!」


慌てて引き剥がすも、


「いいな~美しい隣人。何か謎めいてるし。俺の隣なんて野郎だぜ?しかも女連れ込んでんの」


と吉住はブスリと口を尖らせて、胡坐をかく。



俺の隣に住む―――シェヘラザードは美しくて謎めいている。


そして


料理が上手。


鮭弁当の“おまけ”についてきたのは、大根の煮物、味噌そぼろあんかけだった。


てか“おまけ”の方が豪勢だろ!



出汁のやさしい味がしみこんだ大根は何だか懐かしい味がして、箸で切ると、とろりと柔らかく簡単に切れた。





俺たちの関係も―――こんな風に簡単に切れちゃうのだろうか。



「…うま……」




俺は大根の味をかみしめるように、その恋の味を味わうようにじっくりと口の中で味わった。