「あ、こいつの名前です♪おねーさんは??名前何て言うんですかぁ?」
吉住はまったく不自然じゃない口調でさらりと聞いた。
俺が二ヶ月経っても聞きだせない質問を、こいつはたったの数秒でやりのけた。
それに何だかもやもやと嫌な気分に陥ったが、吉住が居なかったら名前を聞き出すこともできなかった。
ラッキーじゃないか…
そう無理やり思おうとしていたときだった。
「シェヘラザード」
彼女はそっけなく言って、
「へ?」
吉住が?マークを浮かべている横で、
「あたしの名前、シェヘラザード。
これ、鮭弁当の半分。から揚げ弁当の半分ありがとうね。こっちの方が安かったからこれはおまけ」
とそっけなく言って彼女がもう一つ小さめのタッパーをくれ、
さっと身を翻して部屋の中に入ってしまう。
シェラザード。
それはアラビアンナイトに登場する、大臣の娘。
毎晩王様に話しを聞かせ、王様を夢中にさせた賢くて美しい―――
でも俺のシェヘラザードは今夜も「続きはまた今度」と言ってくれなかった。
いつもならここで少なくとも二、三会話を交わすのに。
何で…
何でなの!?



