マンションに帰り着くと吉住を労う気ゼロで、俺は慌てて彼女のタッパーにから揚げ弁当を分けた。
部屋の扉が開いた音で気付いたんだろう。
時間を見計らってベランダに出ると、彼女がベランダの手すりに肘をついてちょっと顔を覗かせていた。
上着を脱いで、髪もほどいていたけど、化粧は落としていない。
「す、すみません!遅くなっちゃって」
慌てて謝ってタッパーを差し出すと、
「いいよ。はっきりした時間を約束してたわけじゃないし」
そう言いながらも、口を押さえて眠そうに欠伸を漏らす。
疲れていそうだ。
「すみません~健人は俺を待っててくれたんです♪」
俺の背後からひょっこりちゃっかり顔を出して、吉住が手を振ると、彼女は欠伸途中のままの表情で変な風に表情を固まらせた。
「タケト?」
彼女が目をぱちぱちさせて俺の名を復唱する。
はじめて彼女の口から名を呼ばれて―――
ドキン
俺の心臓が大きく跳ね上がった。



