「じゃあ、怒ってる理由はなに?」
「怒ってない」
不機嫌丸出しで彼が髪をかきあげた事で腕が解けた。私としては、キスされるのも不機嫌な彼の態度も心外で…彼の胸を突き飛ばしたのに、飛ばされたのは私の方で壁にドンと頭をぶつけた。
「い、たーい。なんで、ビクともしないのよ」
ぶつけた事の、なんともいえない苛立ちを目の前の男にぶつけて睨んだが、彼は呆れ顔で笑っている。
「お前のドジっぷりは斜め上過ぎて、楽しませてくれるよ」
壁にトンと手をついた彼によって、行き場のない壁に更に追い詰められていた。
「…ちかい」
「んっ…大人のキスをした仲なのに」
ニヤッと意地悪な顔をしてるくせに、声は最初から甘くて、嫌でも数分前のキスを思い出させられて真っ赤になった。
「真っ赤か……かわいいよ」
揶揄うような口調で、彼の空いてる手の指が私の顎をすくうように持ちあげて、至近距離まで顔が迫ってくる。
いやだ…
ドキドキと加速していく。
無意識に鼓動を鎮めようと胸を押さえたのたが、その手は、壁を突いていた彼の手に捕まり、何故だか、見せつけるようにじっと見つめられたまま、私の掌や指の腹にキスする彼に、あわあわさせられてる。


![(続編)ありきたりな恋の話ですが、忘れられない恋です[出産・育児編]](https://www.no-ichigo.jp/img/book-cover/1631187-thumb.jpg?t=20210301223334)
