「じゃあ、怒ってる理由はなに?」

「怒ってない」

不機嫌丸出しで彼が髪をかきあげた事で腕が解けた。私としては、キスされるのも不機嫌な彼の態度も心外で…彼の胸を突き飛ばしたのに、飛ばされたのは私の方で壁にドンと頭をぶつけた。

「い、たーい。なんで、ビクともしないのよ」

ぶつけた事の、なんともいえない苛立ちを目の前の男にぶつけて睨んだが、彼は呆れ顔で笑っている。

「お前のドジっぷりは斜め上過ぎて、楽しませてくれるよ」

壁にトンと手をついた彼によって、行き場のない壁に更に追い詰められていた。

「…ちかい」

「んっ…大人のキスをした仲なのに」

ニヤッと意地悪な顔をしてるくせに、声は最初から甘くて、嫌でも数分前のキスを思い出させられて真っ赤になった。

「真っ赤か……かわいいよ」

揶揄うような口調で、彼の空いてる手の指が私の顎をすくうように持ちあげて、至近距離まで顔が迫ってくる。

いやだ…

ドキドキと加速していく。

無意識に鼓動を鎮めようと胸を押さえたのたが、その手は、壁を突いていた彼の手に捕まり、何故だか、見せつけるようにじっと見つめられたまま、私の掌や指の腹にキスする彼に、あわあわさせられてる。