そう言った彼は顔を上げて、私の顔を両手で優しく挟んで見つめてきた目は、哀しみが揺れている気がした。

「もう、間に合わないのか?」

じっと見つめる彼に目が逸らせないでいる。

「梶岡になんて渡したくない。俺を選べ!」

「わたしは…んっ、ん、っっ」

開いた唇に、彼の唇が押しつけてきて言葉を言わせてもらえない状況に、彼の肩を叩いて、押してもびくともせず、顔を左右に動かそうとすると逆に優しく挟んでいた手が力強く顔を押さえてキスが深くなっていった。

厚みのある舌が、私の口内を右往左往に見境なく暴れ舌を絡めては、強く吸いついて擦っては、だらしなく開いた唇を彼の舌先が上下に円をえがいてなぞり、離れていった。その隙に、なけなしの理性を総動員して声を絞り出す。

「…わ…た…んっ、ぐっ…ふぅっ、う、う、うー、ん」

絞り出した声は、最後まで言わせてもらえないまま、噛みつくように下唇を喰んだ彼の唇に理性を奪われて、艶かしく淫らに仕掛けるキスに、そのままうっとりと目を閉じた。

そして、唇を重ねたまま、『りこ』と唇をなぞる彼の唇と掠れた吐息に背筋を震わせた私は、彼にしがみついてキスに夢中で応えながらも、必死に何か言葉を探している。