向井さんは、居酒屋に入るなりビールを頼み、きた早々飲み始めた。私は、渡されたメニューをパラパラめくりながら、抗議中。
「助けただろ…あのまま倒れてたら熱いお茶をかぶってたかもしれないぞ」
「だからって、私を支えるんじゃなくて、お盆を支えるって、なくないですか?」
「触ったら、セクハラとかチカンって言うだろ」
「言うかもしれないですけど、時と場合によります」
「…時と場合ね」
「そうです…」
「そりゃ、悪かった。今度似たようなことがあったら、真っ先にお前を助けてやるよ」
「そうそうあっても困るんですけど、私なら、ありえるので、ないように気をつけます」
「そうだよな…あんな派手な転び方…プッ、あはははははは。さすが、自分でドジっ子って言うだけある。あははは…あー、ほんと、お前は、俺を楽しませてくれるよ」
「笑わないでください。地味に今、痛いんです」
「今回も、見てたのは俺だけでよかったよな…ももじ、りっこ」
キッと彼を睨んでやるが、彼は素知らぬ顔で話を進めていく。
「ほら、お前、つまみ好きなんだろ。食べたいもの頼んで食べていいぞ。ついでにこれのおかわりも頼む」
自分で言えばいいのに…
彼は上機嫌で、また飲みはじめた。


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