桐谷さんの表情が暗くなっていくのがわからない男は、私より先に出て行ってしまう。

誰も口には出さないが、この親睦会の本当の目的は、向井さんに気がある桐谷さんの為の集まりだったはず…

それなのに…最悪な事態になってしまった。

本来なら、この後の席替えや、二次会で向井さんと桐谷さんの距離を詰めようと考えていたのだろうが、相手が帰ってしまっては、どうしようもない。

絵梨花を見たら、大丈夫だからと頷いていた。

「あーぁ、やっぱり帰ったか…仕方ない、残った俺たちだけで、後でカラオケに行こうか?」

砂羽さんはピクンと反応し、いく気満々になる。

絵梨花から、砂羽さんがカラオケ好きだとリサーチ済みだった渡部さんのファインプレーに、この場の雰囲気も明るくなったので、私を気にかける絵梨花と渡部さんだけに、軽く会釈して部屋を出た。

そして、店を出てすぐ、タバコを吸って立っている向井さんと出くわした。

なんで、そんなとこにいるのよ…

彼の前を通らないと帰れない私は、小声で「お疲れ様でした。おやすみなさい」と言いながら通り過ぎようとした。

「ももじりっこ…待てよ」

「なんですか?」

ムカっとなり声を荒げて返事すると、彼は可笑しそうに笑い出す。