世界で一番、不器用な君へ



カラ、コロ、と下駄の音が響く。


だんだんと笛や太鼓の音が近づく。


「…蓮、なんか今日静かじゃない?」


「…そうか?」


後ろから聞こえてくる声に、俺はいつも通りの声で応じる。


別に、こんなの、普段と同じだ。


「お前がいつもみたいにギャーギャー言わないからだろ。俺はもともと大人だよ」


「なに言ってんだか」


チラリと後ろを見ると、クスクスと笑う一花の表情が目に飛び込んでくる。


いつもと違うのは、お前だよ。


キャプテンの前では、そんな風に笑うんだな。


「待ち合わせ場所、ここでいいんだよな」


「うん」


「変なやつに声かけられても、いつもみたいに蹴り入れんなよ?浴衣崩れるからな」


「そんなことしないっ…あっ」


よろけそうになった一花の手を咄嗟に掴んで引き寄せる。


「っぶねー…言ってるそばから!」


「面目ない…」


俺の手に収まる、小さな手。


「じゃあ、俺はそろそろ行くわ。キャプテンと鉢合わせてもまずいし」


「うん、蓮、ほんとにありがとね。私、頑張るから」


頑張って言うから。


そう言って意気込む一花を、何故か、遠くに感じる。


目の前にいるのに。こうして、手だって掴んでるのに。