「梨央、退院おめでとう。よく頑張ったな。」



「颯くんありがとう。」



「暫くは一週間毎に外来へ来てくださいね。」



「えー、せっかく退院なのに水沢先生嫌な事言う。」



全然怒っていないけれど、少しムッとした表情をしてみせる。



だけど、やっぱり退院は嬉しくてすぐ顔が緩んでしまった。



「梨央ったらもう。みなさん本当にお世話になりました。」



隣で挨拶をしている母の姿を眺めながら、私はあの夜の事をふと思い出していた。



あの時の水沢先生の顔をもっとよく見ておけば良かったと思う。



どんな表情だったのだろう。



どんな思いが詰まった言葉だったのだろう。




「立川さん?ぼーっとして、どうかしました?」




水沢先生が取り乱す姿を見たのはあれっきりなく、その後の診察の時も、そして今も、何事もなかったかのように普通だ。




「…ううん、なんでもない。」




そう返事をしながら、私も何事もなかったかのように水沢先生に笑顔を返した。