それでも君を

颯くんが何気なく顔をあげたため、お互いの視線が近距離で交差する。



予想外の近さに脳が危険と判断したのか、無意識に颯くんとの間に僅かな距離をとる。



自分でも気付かないような些細な変化だけれども、それを決して見逃す颯くんではない。



「俺が今できることといえば、お前を診ることくらいかな」



含みのある言い回しにこちらは首を傾げるが、颯くんはふっと優しく笑うだけだった。



そんなことを言うくらいだから診察が始まるのかと思ったが、颯くんはなにもしてこない。



診たいけれど遠慮している、そんな感じだ。



目では私のことを診ているけれど、触れてはこない。