少女――選(せん)は友達の会田(あいだ)雪野(ゆきの)が用事を済ませるのを、廊下で一人待っていた。

この日は、選たちの通う小学校の卒業式だった。

本来なら選たちは既に主役として体育館に入場する準備をしていなければならないのだが、雪野が式の寸前に忘れ物をしたと言って一人で教室に戻ろうとしていたので、選もついて来たのだ。


「雪野ちゃん、終わった?」


選が聞くと教室の中から雪野が答えた。


「まだかかりそう・・・・やっぱり選、先に行ってくれる?」


「ううん、待ってるよ。私が行ったら式に出てないの雪野ちゃんだけになっちゃうし・・・・」


「私がいない事くらいなら誰も気付かないんじゃない?先生達だって上手く誤魔化せるだろうし」


雪野はいつも通り諦めたように言う。

雪野はあまりクラスの人達に好かれていない。

どんな言葉でも思ったまま口にする癖が皆の反感を買ってしまうらしい。


「じゃあ、私も雪野ちゃんが出ないなら出ない!」


「はぁ⁉」


さすがに雪野でも選のこの宣言には度肝を抜かれたらしく、彼女らしくない抜けた声が聞こえた。

その後、雪野が何か言い返そうとしているのが何となく分かったが、選が一度言い出したら聞かないのを思い出して諦めたのか、会話はそれきり途切れた。

選は雪野を待つ間、階段の上に有る窓から空を見ていた。

空は雲一つ無い快晴だったが、選にはなぜか素直に綺麗だとは思えなかった


「・・・・」


その後も選はしばらく空を眺めていてが、不意に背後で気配を感じた。

雪野が教室から出て来たのかと思った選は笑顔で振り返ろうと身体を捻りかけた。

しかしその途中、背中に強い圧迫を感じた。

その途端、選の身体は重力に従って階段の下に落ちて行った。

階段の一番下まで落ちた時、選は頭を強く打って意識が朦朧とし始めた。

霞みかけた視界で自分の落ちた場所を見ると、青い顔をした雪野が慌てた様子で何かを叫んでいるのが見えた。何を叫んでいるのかは解らない。

選の意識はそこで完全に途切れた。