「……本気、なのか」
「そうだ」

答えた青年の王は、どこか寂し気に、けれどきっぱりとした口調で言って、小さな王を見返す。

「きっと、もっと前に、我は、こうすべきだったのだ」

全ては前もって計画を練り、準備されていたことなのだろう。

姿こそ現さぬが、森の草木に宿る眷属達も、こちらを注視しているのがわかる。

「いつから考えていた?」

訊ねると、青年の王はまるで悪戯が成功した時の小さな王のように、口の端を上げて笑った。

「……そなたが知らぬ間に」

片割れの言葉に、小さな王は瞠目し。

「そうか……私の知らぬ間に、か」

そうして数百年ぶりに、朗らかで屈託のない小さな王の笑い声が、緑深い精霊の森に響く。

「そうまで言われては…………行くしかない」

小さな王の宣言に、わっと、空から、森から、歓声が上がる。

その声に応えるように、小さな王がほっそりとした腕を上げた。

「今、この時より、私は王ではなく、この世界のいずれかをさすらうあてなき旅人となる!」

上げた腕の頂点から、つむじ風のように力の流れが生まれ、くるくると渦を巻きながら小さな王を包んでいくのを見つめる者達の間から漏れる、恐れと驚きのざわめき。