「覚えているか?」
振り返った青年の王が、そんなことを言って、小さな王を振り返った。
「そなたが最初に、この森を出た時のことを」
思いもよらぬ問いかけ。
ちょうど眠りにつく前に思い出したのを見たのだろうか、と、眉をひそめながら小さな王は頷く。
「あの頃から、私はずっと恐れてきたのだ」
「…………何を?」
「そなたが、いなくなることを」
半ば予想していた片割れの言葉に、小さな王はため息をつく。
「……ちょっと出かけただけだろう」
そっけなく返した小さな王を見て、青年の王は眩しいものでも見るかのように目を細めた。
「ああ……だが、あの時のそなたは、きらきらと瞳を輝かせて……とても美しかったのだ。これまでに見たこともないほど、とても……」
言いながら、しゃがみ込んだ青年の王をいぶかし気に見やった小さな王は、その視線の先にある小さな花に気づき、目を見開く。
辺りを見回せば、明るい円形の広場のそこかしこに咲く小さな黄色の花。
あの時、初めてこの森を出た時に持ち帰った小さな土産。
まだ仲睦まじかった頃の、最後の思い出。



