「わあ!すごい!」

湖精のすぐ横に膝をつき、子供は嬉しそうに言った。

「こんな所、村の誰も知らないぞ」

水底を覗きこみ、魚がいる、と、はしゃぐ子供を見ながら、力なく腕を落とす湖精へ、飛んできた花精がため息混じりに言った。

「人の子に、私達の姿が見えるはずないわ」
「ええ……そうね……」

湖精はせつない目を子供に向け、頷いた。

いくら手をのばそうとも、この腕で抱き上げることはもちろん、触れることすら叶わない。

水の中で包み込み、湖精が抱きしめることはできたとしても、それを相手が感じることはない。


あの赤子と同じ……

私達は、棲む世界が違う。


「わかっているわ……」

水辺ではしゃぐ子供を眺めながら、湖精はひとり、唇をかみしめた。


森も、動物も、人間も。

水を与え、育み、こうして見守っていくのが、私達の運命。

つかず、離れず、気取られず、ただ見守るだけ。

けれど、私は…………

太陽が山の向こうに落ち、やわらかな草の褥で子供が寝入ってしまった頃。

湖精は、誰にも知られないように、そっと、湖を抜け出した。