べそべそと泣きながら、森を抜けて来た子供は、ふいに開けた空を不思議そうに顔を上げた。

「…………あれ?」

赤く晴れた瞼から落ちそうになっていた涙の粒を、ぐい、と袖口で乱暴に拭って、目の前に現れた小さな翠の湖をまじまじと見つめる。

精霊たる自分達は、人の子の目には映らない。

わかってはいても、目の前の子供は穴のあくほどに自分を見つめているように見える。

生まれて初めてのこの状況に、湖精は、動揺を隠せないでいた。


私を……見ているの?

そう訊ねようと、湖精が半身を乗り出した時。

ぱあっと、花が咲くように、子供が笑った。

「わあ……きれい……」

自分を見つめて、そう言った子供の笑顔に、ドキンと胸が高鳴った。

「…………え?」

小さな笑い声を上げながら駆け寄って来る子供を呆然と見つめながら、湖精は知らぬ間にそちらへむかって腕を伸ばしていた。

まっすぐに走って来る子供。

その子供を抱こうと、広げた腕を、子供の体がすり抜ける。