自分が誰かを傷つける……
そのことを知ってしまった湖精は、攻撃された方よりもむしろ激しく怯えながら花精に近寄り、震える指先をいつものように差し伸べることもできずにいた。
「……私……私、そんなつもりじゃ……」
「わかっているわ」
ようやく我を取り戻した湖精を見て、花精は安堵の息を吐き、ほっとして微笑んだ。
「湖精、私は大丈夫だから。落ち着いてちょうだい」
「……本当に?」
「ええ、本当よ。だから、私の言うことを聞いて」
小さな羽根を動かして見せ、花精は気丈に立ち上がり、湖精に言った。
「あの子の生死に関して、人の子……人間達が知っているかどうかはわからない。でも、あの胎のことを知っているはずがないわ」
ハッと顔を上げた湖精に近づき、花精は優しく言い聞かせる。
「あの胎は、精霊が力を合わせた特別な水の中のゆりかご。知っているのは、あなた達だけよ。そうでしょ?」
「そう……そうね……」
まだ不安そうにしながらも、湖精は頷き、波立った湖面をどうにかして落ち着かせようとする。
「でも……それなら、なぜ、人間が?」
「……それは…………ごめんなさい、私にも、わからないわ……」



