ざわざわと、岸辺の草が湖からの風にあおられ、揺れ始める。
この湖は、湖精の心、湖精そのもの。
彼女の中に生まれた不安によって、湖の水は波立ち、暗く、色を変えていく。
「湖精!湖精?どうしたの?」
あわてて飛んできた花精が声をかけても、その変化は止まらない。
「人間が……あの子を取り返しに来たのよ」
「そんなわけないわ!」
くるくると湖精の周りを飛び回りながら、花精は心を落ち着けるように湖精に言い聞かせる。
「あれからもう何年も経っているのよ?死んでいると思っているわ!」
「死んではいない!」
湖精が強く言い放つと、我知らず、腕のように繰り出された水が花精を襲った。
「きゃあ!!」
飛沫を浴びた花精は、かよわい蝶のように簡単に吹き飛ばされてしまう。
「花精!」
ピンク色の小さな友人が落ちていくのを見て、湖精は息をのみ、青ざめた。
「ごめんなさい!……ああ!花精!!」
湖精が生まれてこれまで、これほどまでに取り乱したことなどない。
ただ穏やかに、そこにあるだけの自分の水が他人を傷つけるなど、考えてみたこともなかった。



